「もっと人生を生きなさい」
フランス人は、他人の映画作品を評する際によくそう言います。
90年代の終わり頃、とある日本の映画監督が憧れのフランスの映画監督に意見を請いました。
「うん、良かったよ、でももっとあなたの人生を生きた方が良い、するともっと良い映画が撮れるだろう」
憧れの人からのその言葉を、褒め言葉だと思ったのでしょう、遅咲きの映画監督は飛び上がらんばかりに喜んでいました。
その後も何度か、フランスの映画人が日本の映画もしくは映画監督に対し同じ趣旨のコメントをしているのを目にしました。
とあるモキュメンタリー番組では、フランス人の日本映画研究者が全く同じ趣旨の発言をしていました。
「学校ではなく(人生を)生きることで学ぶのが映画じゃないかと思います、良い映画監督になりたいならね」
自分の若い頃を振り返ってもそうですが、自分の想い、自分の知る狭い世界に埋没し、周りを見る余裕がない。
現在の映画界で働いているスタッフたちはどうでしょう。10代の終わり、もしくは20歳そこそこで業界に飛び込み、昼夜の別なく奴隷の様に働き、人生を経験するだけの時間がない、インプットする時間もなければ、アウトプットするだけの知識や経験もない……
知識も人生経験もなければ、まず脚本が書けない、書き始めてもすぐに行き詰まる……
アメリカ人と違ってフランス人は直截な物言いをしないので、その言葉が、一体褒め言葉なのか、やんわりと批判されているのか分かり辛いのですが、その意味を掴めないことが、つまりは人生経験が足りないという証ともなっています。
ちなみにここ二、三十年のフランス映画を見ても、登場人物たちには全く動きがなく、くっちゃべってるだけの映画が跋扈していて、そんなフランス人に言われたくないとも思いますが、大ヒットした小説や漫画原作、中高生の青春やご都合主義な難病ものばかり続く日本映画に対し「もっと人生を生きなさい」と声を掛けたくなる、その気持ちも良く分かります。
「映画監督を目指す人たちにアドバイスを」と問われた日本の某有名映画監督は、「まあ、アドバイスなんてもんじゃないけど……色んなことは知ってた方が良いよね……食べ物だったら、立ち食い蕎麦屋から高級な鮨屋まで知っていないと映画監督なんてできないよね」と、フランス人とは違う表現で「もっと人生を生きた方が良い」と同じことを語っていました。